ジャケ買いの功罪 featuring「Apocalyptic feasting」 by BRAIN DRILL

2/21/2024

t f B! P L
 


皆さんは「ジャケ買い」なる行為をした事があるだろうか。

肝心である音楽の中身を知らずにアートワークなりパッケージのデザインから中身を想像し購入するというバクチめいた行為ではあるが、成功の是非はともかく、古いメタラーはかなりの頻度でやっていたと思われる。

現在ほど情報の氾濫していない頃、音楽ファンの主な情報収集源といえばテレビ・ラジオ・情報誌であった。

しかし、ケーブルテレビでもひいてなければテレビでメタル界隈の情報を得る事は難しく、自ずとラジオ・情報誌に頼ることとなるのだが、暗黒街道まっしぐらなコアなメタラー(主にデス・ブラック系)はそれすら条件は厳しくなる。

私の場合はかなり恵まれていた。
近くにメタル専門のCDショップがあり、そこに入り浸っていた。そこそこ試聴もでき、過不足なく情報収集できた。
ある程度までは

更なる激音を求め、私が手を伸ばし始めたのは輸入盤である。

ニッポンの商売上手のおっちゃん達のお眼鏡に適い、めでたく日本デビューした精鋭メタルバンドひしめく国内市場ではなく、非の打ち所のない超SSRクラスから、果ては「未来永劫に銀河最強の超名盤!!」とか大袈裟な叩き文句を店側が付けてる割には誰も全く知らない様なウルトラZ級にしょっぱいバンドまでもが群雄割拠する輸入盤市場に目を向けたのだ。

そこは足を1歩踏みいれると、暗闇である。
何もとっかかりが無いのである。

見たことも聞いた事もないバンド、全く覚えのないバンド名、全く知らないバンドメンバー、アルファベットの羅列、よく分からないレコードレーベル、よく分からない国籍、よく分からないロゴがプリントされたよく分からない黒Tシャツを着用しているよく分からない強面のハゲ・ヒゲ・デブのメンバー写真…などのオンパレード。

前を向いても崖、後ろを向いても崖である。
情報弱者である私には暗黒の大海の如き世界が広がっていた。
暗黒の輸入盤市場を航海する中、私はひとつの指針を頼りにしていた。

そう、アルバムジャケットである。

ジャケ写から得られる音楽的情報は、はっきり言って皆無と言っていい。そのアーティストの表現形態のひとつに過ぎないからである。しかしそれだけに、世界観を表すヒントにはなる。

ジャケ買いの達人たちは、ジャケ写を血が出る程食い入る様に見つめ、1ドット単位まで正確に分析し、頭の中に世界観を想い、描く。妄想とか言わない。

異常に変形したデザインを優先する余り、ほとんどなんて書いてるか言われなきゃ分かんねーよ的なバンドロゴや、描いてある死体の量、ドクロの数、血の量、物騒な曲名、ギターの変形具合、メンバーの肥満率、ヒゲの多さなど考慮すべき点は山ほどある。それらからジャンルの特定、音楽性、クオリティ等を導き出すのである。

そして思う存分妄想した後(言っちゃった)、購入し、自宅で聴いてみた時の悲喜こもごもと言ったら。

ある日はクオリティの高さに狂喜し、ある日はヒドすぎる内容に金と時間を浪費して絶望に苛まれる。

それを続ける内、やがて後者すらも嗜虐的な快感として享受するくらいには業が深くなってしまった私はある日、本題である「Apocalyptic feasting」に出会ってしまったのである。

見れば分かるが、ジャケ写のまー酷いこと酷いこと。

荒廃したビル群の中、ゾンビと思わしき集団が人間そして同族を貪り食らうという、80年代ならまだしも2000年代を生きるZ級デスメタルバンドでも思いついても誰もベタ過ぎてやらんだろという超風景。
その思いつきの浅はかさは、トランプのババをジャイアント馬場にしてみました」レベルである(本当にあったらさーせん)。

私はこれを見つけた時、うすらチープなバンド名とジャケの余りのヒドさに即購入した。前述の通り、内容のヒドさを肴にして笑うくらいにはネジ曲がった音楽ファンだった。
「どんなヒドい世界が待ち受けてるんだろう?」と期待する私の目は、麻薬中毒者のそれだったんじゃないかと思う。
そして虚ろな目で再生ボタンを押す。


マジか…ネクストレベルやんけ…。

自分でもよく分からない感想を呟いた。
90年代中頃にVADERCRYPTOPSYを体験した時も似たような衝撃はあったが、この時はそれ以上である。国産のみならずアメリカ産、カナダ産、北欧産、ポーランド産、ブラジル産…あらゆる舶来モノを聴いてきた筈の私が完全にビビってしまった。
トランプのババはヒョードルだったのである。

まさしく羊の皮を被った狼。馬場の格好をしたヒョードル。私はすっかり騙された。

タッピング ・スウィープを多用しながらも決して難解にならず、リフにすら組み込む程の超絶技巧を誇るギター、そのギターを殺す勢いで猛追、しかし上品さと知性を感じさせるウルトラクリアなベース、そしてグラヴィティ・ブラストを軸とした非人道的なスピードをベースに歴戦のブルデス、グラインドコア系を過去の物にしてしまった超暴力ドラミング、ジャケ写からは想像出来ないレベルのヘヴィさ、クリアさをしかと耳に届ける良質なプロダクション。

全てが超一流である。ジャケ写以外は…。

…逆に聞きたい。
何故、このジャケ写にした?

ひょっとしたらワザとなのかも知れない。


これだからジャケ買いは止められない。
今日も冒険者たちは船を漕ぎ続ける。
99人のジャイアント馬場に囲まれようとも、1人のヒョードルに出会う為に。

あなたも暗黒の航海に出てみてはいかがだろうか。





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