90年代の末頃だったか、「ビル・スティアによるブルースロックバンド始動!!」というニュースが流れた事にはかなり驚かされた人が多かったんじゃないだろうか。
当時世界最速と謳われたNAPALM DEATHを経て、やがて世界に悪名を轟かせた特級危険大残酷メタルバンドCARCASSの首魁として、その血と臓腑と医薬品に塗れた種子を世界中にバラ撒いたというかつての所業を鑑みれば、無理もない話である。
その輝かしくも忌まわしいキャリアの持ち主が、「ブルースロックをやる」と言い放つ衝撃ときたら、3rdアルバム「屍体愛好癖」を特に愛聴していた私には、寝耳に水どころの騒ぎでは無かった。
考えてみてくださいよ。10代の糞ガキが信奉してるアイドルが、いきなり180度違う事をやり出す衝撃を。
そのギャップときたら、「ヤンキーが改心して警察官になった」とか「相原勇、曙と破局していた」とか「奥様は魔女だった」とか「鳩山幸は金星人だった」等のスポーツ新聞の見出しクラスの落差である。
書いてて思ったけど大したことねえな。
とにかく、当時の解散作「Swansong」では、CARCASS流デスメタルは聴かれなかったとは言え、真っ当なメタルとしては中々悪くない出来だったのもあり、
「次はこーゆう路線でいくんかなぁ……アリやな!!」
と、次のバンドでは恐らくMEGADETHっぽい路線で再出発すると勝手に期待したものだった。
しかしまさかのブルースマン発言。
10代の私はブルースのペの字も知らないボンクラであった。
ブルースって何だ。ビル、アンタはメタラーじゃなかったのかよぅ…。
ブルースと言えば「伊勢佐木町ブルース」か、淡谷のり子のブルースしか知らない10代のボンクラメタラーに、未開のジャングルの如き領域が立ちはだかっていた。
誰もが経験していると思われるが、
子供の頃に夢中になったものはその後の人生に置いて大きな影響を持つ。
皆、何かに熱中し、神聖化し、狂信化し、絶対視する。
私の場合はヘヴィメタルである。小学生の時分に出会い、長い時間をかけて絶対的な存在として昇華された。
やがてそれは思春期特有の焦燥感と重なり、日に日に欲求が増していった。
「もっと速いものを」「激しいものを」「重いものを」という「もっともっと」が日常化し、小遣いは全てCDにつぎこみ、ハードコア、スラッシュ、デス、グラインドコア、ドゥームetc.....極端なジャンルを買い漁る日々、日々、日々。
半ばジャンキー化していた頃に、やはりCARCASSに出会い、のめり込み、崇拝した。
子供の頃から極端な音楽ばかり聴いていた私には、ブルースロックという未知の壁は余りにも高すぎた。
しかし私は若かった。
未知に対して、恐怖よりも冒険心、好奇心が勝ったのである。メタルというものに対し、何処か倦んでいたというのもあったかもしれない。
そしてハラハラしながらデビュー作を購入。
初めてのブルースロックは、事の他私を温かく迎えてくれた。
メタルに求められる整合感とは全く異質のルーズさ、温かさ、太さ。演奏者の呼吸、弦の振動、バスドラの地鳴りが伝わって来るようなライヴ感。
そして感触は違えど、そこには確実に「パンチ力」と「ヘヴィさ」があった。
素直に「ロックってカッコイイ」と初めて思わせてくれたのである。
そして本作「DELUXE」はというと…
タイトル通り、前作のアッパーバージョンである。
明らかに全体のアンサンブルの重心が低くなり、ヘヴィさが増した。
ヘヴィグルーヴの怪物レオ・スミーと、いにしえのロックドラムを知り尽くした男ルディッグ・ヴィットのグルーヴ天国&スウィング地獄に翻弄されながらも、ど真ん中でブルースロック・ギターの醍醐味を求道的にカマし続けるCARCASS時代とはまるで対象的なビルの人情味溢れるギターを聴くと、「もうキミは大人だよ」と、ビルが優しく抱き締めてくれる錯覚すら覚える。
実際このアルバムを買った頃にハタチになったんだけども。
パワートリオかくあるべしといった趣の"dirt trap"
ヘヴィさとルーズさの奇跡的配合をよそに、ビルのブルースプレイヤーとしての確かな腕が光る"forsaken"
カッティングの鋭利さと超強力なグルーヴがダンゴ状になって攻めてくる"hammer&tongs" "zoltana"
など、ギター・ベース・ドラムが取っ組み合いの喧嘩をしている様なアンサンブルの妙技をしかと味わえる、原始的で野蛮な、しかし何処か上品な香りのする本来のロックがここにある。
この作品を心から愛せるようになり、他ジャンルへの探求を始めたハタチの冬、ブラックコーヒーを初めて飲んだ時のように、すこーーしだけ大人になれた様な気がした。
ビルは教えてくれた。
この世には様々な音楽があり、そこには貴賎もなく、上下もなく、ただただ、「いいもの」だけが有るのだと。
あ、でもコーヒーは砂糖とミルク入れないと飲めないっす。

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