ダウンチューニング?なんすかそれ? ~ノーマルチューニングで頑張る人たち~

6/12/2024

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ヘヴィなリフにしたいからってチューニングを下げる必要はないんだぜ
~ アンドレアス・キッサー(SEPULTURA) ~     



ダウンチューニングとは…エレクトリックギター・ベース等、弦楽器の弦を緩める事で通常のチューニングよりも低くヘヴィな音が得られることから、主に近年のロック~メタルにかけて広く使われる手法である。


メタル界隈で言えば、古くは70年代初頭からBLACK SABBATHが既に1音半(C#)まで下げて演奏していたが、90年代以降ともなるとその程度では飽き足らず2音下げくらいは当たり前、デスメタルバンドに至っては2音半(B)下げがスタンダードチューニングやろがい!みたいな風潮すらあったように思う。

そこまで下げると流石に弦がベロンベロンになっちゃうので音程もへったくれもなくなるのだが。(弦の太さによる)


2000年代に入るとオレの方が低い、いやワシの方が、いやいや、わだすの方が…という収拾のつかないほどの弦ベロンベロン大合戦だったわけだが、この状況をビジネスチャンスと捉えた商売上手な楽器屋のオッサン達は更なる低音を提供すべく7弦、8弦ギター、果ては9弦ギターというもはや人類が操れるのかどうかすら怪しいギターを投入。その多弦ギターですら更にダウンチューニング…という人智の及ばぬ低音ベロンベロン無間地獄へ突入している昨今、私はこう思った。


楽器本来の役割忘れてないか?と。


音楽において楽器は表現の為の手段である。

アタマん中にあるイメージなり風景なり憧憬なり妄想なりを具現化する為に使う道具なのである。

それを差し置いてただのベロンベロン自慢大会になっているド三流自称メタルバンド共に物申すための本企画ではあるが、冒頭のアンドレアス・キッサーの言葉通りヘヴィメタル・アルバムでノーマルチューニングを使用している名盤は星の数程存在する。

現に、いにしえから現代まで世界中で伝えられているアイコニックなリフの数々はノーマルチューニングのものが多いではないか。
数えたわけじゃないけども。


そこで今回はノーマルチューニングでも十二分にヘヴィな作品を紹介したいと思う。
ダウンチューニングなんぞに頼らずとも、研鑽と工夫次第で、ヘヴィメタルは如何様にもその姿を変えられる事を身をもって知って頂きたい。


これらを聴いた皆さんは、恐らくギターペグ(チューニングするとこ)に手をかける事すら躊躇うほどのダウンチューニング排斥主義に変貌しているであろう。
知らんけど。





1.  MEGADETH
    「Killing is my Business…And Business is Good!」 

時期によって半音下げだったりすることもあるが、基本的にはノーマルチューニングが多い気がする。


当時、何よりもMETALLICAの血を見たがっていたデイヴ・ムステインが放つ狂気のデビュー作である。

2人のジャズプレイヤーを迎えたことが奏功、一捻りありながらもインパクト抜群な作曲・リフ醸造術はハードコア・パンク、ハードロック・メタルを同じくルーツに持つBIG4その他(METALLICA・ANTHRAX・SLAYER)のデビュー作らと並べても特に異彩を放っていた。

何よりも殺傷能力、耳への残りやすさ、ひねくれ具合、緊張感、神経質さ、これら全てを兼ね備えたデイヴ・ムステインのリフメイカーとしての才能はデビュー作にして既に開花していた…どころか全キャリア中一、二を争う出来。

全体の完成度としては次作「Peace Sells…But Who's Buying?」に軍配が上がる。しかしギター小僧がこぞってマネしたくなる黄金のリフが、後世のメタルヘッドが参考にすべき世界遺産的リフがデイヴの執念と共に沢山詰まっているこの作品こそを私は推したい。

「第2、第3のMETALLICA」とか呼ばれるMETALLICAっぽい若手バンドはこれまでに沢山いたかも知れないが、MEGADETHに関してはあまりそういった話は聞かない気がする。

それほどに強烈な個性と言える。



2. OVERKILL
    「W.F.O.」

キャリア的には上記のMEGADETHらとそう変わらない程の大ベテランでありながら、歳を経るごとにタフで血気盛んな印象が増してきているニューヨークの重鎮。

この作品がリリースされた頃は、老いも若きもPANTERAを水で100倍に薄めた様な劣悪なコピーに終始する小粒メタルバンド共の登場に世間もメディアもウンザリしていたであろう時期である。

この作品のやたらドンシャリ気味な音像だけを聴くと、そういった印象を抱くかも知れないが、内容はさにあらず。

よく「鉄球が転がっているような」と例えられるD.D.ヴァー二のベースに誘導されながらスラッシュメタルの醍醐味をしかと伝える斬れ味抜群なリフの嵐を聴くと、ガソリンと灼けたアスファルトの匂いを胸いっぱいに吸込みつつバイクでかっ飛ばしている錯覚に陥る。
"Fast Junkie"の様な曲を聴くと尚更である。

どうやら最新作「SCORCHED」でもノーマルチューニングは維持されている模様。ボビー "ブリッツ" エルズワースのヴォーカルも全く衰えているようには聴こえず、マジでサイボーグなんじゃないかと思わせる不変っぷり。

ヴォーカリストの体力、声量の衰えと共に曲のキーを下げざるを得ないベテラン勢には是非見習って欲しいものである。



3.  MORS PRINCIPIUM EST
     「Liberation = Termination」

90年代から続く北欧メロデス・バブルが2000年代にそのまんま突入し、かなり食傷気味になってきた頃にフィンランドからいつのまにかデビューしていたバンドである。
つーか私が知らなかっただけか。

他の北欧出身のメロデスバンドの例に漏れず、悲哀と激情に満ちた音楽性ではあるが、ダウンチューニングが当然であるかのようなデスメタル界隈のお約束には目もくれず、ノーマルチューニングに拘っている印象である。

それにより寸分の狂いなく刻まれるリフ・リズムの斬れ味が倍増、うっすらまぶしこまれたデジタル風味の近未来感も手伝ってアルバム全体の明瞭感・透明感は、重く濁った音像の多い他のデスメタルバンドとの格の違いを主張している。

ダウンチューニングに頼らない…というよりはノーマルチューニングを武器にしているといった趣。

メカニカルな刻みに耳を奪われがちだが、そこに頻繁に挿入される冷たいメロディの質も素晴らしい。
シュラプネル系ギタリストを彷彿とさせる程の腕前を誇るフラッシーさと分かり易さを兼ね備えた美味しい各フレーズは、ギター小僧達が飛びつくことうけあい。

"Fainality"の憂いと激情が入り混じったギターリフを始め、メタルギタリストを志す少年少女達のチャレンジング精神を刺激するに違いない取っ付きやすくも簡単ではないリフの宝庫である。
しかもめっさ速いんだコレが。

ノーマルチューニングでも十分過激な音楽は創造可能である事を証明した快作である。



4. EMPEROR
    「Ⅸ EQUILBRIUM」

ご存知スカンジナビアを本拠とするブラックメタル界における文字通りの"皇帝"である。

特筆すべきは苛烈・熾烈・暴虐・壮絶などという言葉ではとても形容できない程に音塊の嵐に次ぐ嵐が支配するとでも言えば良いのか、そもそもこの作品をヘヴィメタルという枠組みに収めるのが無理なのではないかという並外れたスケール感。

確かにブラックメタルであり、ノーマルチューニングではあるのだが、何百重にも張り巡らされた魔法陣の如く重層的で深遠なるシンセ等を交えたアレンジ、人の身では到底辿り着くことが難しいであろうタリムによるリズムの強靭さ、そしてそれらを纏めあげる首魁イーサーン&サモスの神がかった作曲能力の前では、ダウンチューニングでズクズクいわしてるだけのドサンピンが適うはずもなく、この巨大な暗黒エネルギーの渦の前ではいかなる小細工も無駄である。

これ程の高次元な芸術作品になると、もはやチューニングがどうのこうの言ってるのが恥ずかしくなる。

普通のブラックメタルバンドが「悪魔的」だの「アンチキリスト的」などの評価で悦に入っているのがやたら稚拙に見える程の国宝クラス芸術と言っても過言ではない。

"皇帝"の統治に、我々人類はひたすら平身低頭で許しを乞うのみである。





ほんの一部を紹介したが、デスメタル・ブラックメタルなどの激烈さを旨とするジャンルであっても意外とノーマルチューニングでやってるバンドはいるものである。

やはり肝心なのは「音楽そのもの」であり、音程の高い低いに拘っているようでは人の心を動かすことは難しいのである。チューニングは「手段」であって「目的」ではないのだから。

なので世の中のベロンベロン自慢の皆さんに置かれましては、弦を緩めるよりも、聴き手を如何にノックアウトするべきかという事に心血を注ぐべきではないのかと思うのだ。



ヘヴィメタルという音楽において「ヘヴィさ」とは一体何なのか?


そろそろメタルファンは考えるべきなのかも知れない。




追記

冒頭のアンドレアス・キッサーの言葉は、FEAR FACTORYのディーノ・カザレスのインタビューの中での話だが、実は続きがある。


ディーノ「でも数年後、気付いたら、彼自身(アンドレアス)もチューニングを下げてやがるんだ!!」



………なんじゃそら!!!!









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