「インダストリアル・メタル」という言葉をしばしば聞くようになったのはいつ頃だったろうか。
MINISTRYが共和党への怒りをブチマケ出した頃だろうか?
それともNINE INCH NAILSが世に出始めた頃か?
はたまたFEAR FACTORYが「DEMANUFACTURE」における正確かつ冷酷無比なリフ&ビートで世界中の好事家を切り刻んだ頃かもしれない。
いずれにせよ、暖かみと音場の広さがウリであったLPアナログ世代から冷たくモダンな音がマッチするCDデジタル世代へと音楽メディアのバトンタッチが行われ、それに伴ってミュージシャンがデジタル技術に急接近した結果の産物…だと思われる。
エッジの効いたギターリフとメカニカルビートの相性の良さは上記のバンド達が既に証明しているわけだが、
その極北が今回紹介するオーストラリアの殺戮兵器THE BERZERKERである。
この「Dissimulate」がリリースされた当時のメンバー写真を見ると全員が怪物マスクを着用しているのだが、首魁であるルーク・ケニーによると
「元々はTHE BERZERKERというヴァイキングの戦士達が動物の皮などで顔、体を覆っていたところから始まった。音だけではなく視覚的にもこの音楽という体験をより高めることが出来る」
(「animosity」ライナーノーツより)
との事。
しかし2000年代初頭、マスク着用バンドというと途端にとあるバンドを想像する人も多いのではないだろうか。
そう、SLIPKNOTである。
この作品がリリースされる1年ほど前に、「IOWA」によってデビュー作「SLIPKNOT」とは比べ物にならない程の憎悪とエクストリームメタル的激音が世界中に病原菌の如く伝播すると同時に特級危険メタルバンドの1つとして認知され始め、マスク×オソロのツナギというペルソナを演じるという見た目にもインパクト大な部分も手伝って瞬く間にスターダムにのし上がった。
かくして世界的な認知度を得たSLIPKNOTと「マスクを被っている」というだけでいちいち比較される状況にウンザリしたTHE BERZERKERは「もっと音楽に焦点を当てて欲しい」という思いからマスクを脱ぐことを決意。
ルークのご尊顔が日の目を見ることが叶ったのである。
しかしルークの言う通り、肝心なのは音楽。
個人的には、THE BERZERKERの前では如何にSLIPKNOTと言えども「人間らしい血の通ったオーガニックな音楽」に聴こえてしまう…というのが正直な所。
まるで対照的なのだ。
人間のありとあらゆる負の感情を増幅させた巨大な憎悪の渦をデスメタル・ブラックメタル由来の熾烈なグルーヴに乗せて血涙を流しながら暴走するSLIPKNOT。
一方、同じくデスメタル・ブラックメタルのフィールドを住処としながらも、感情など全く感じさせぬ無慈悲極まりない狂速のリズムと冷酷に切り刻まれるリフの波状攻撃で人間どころか全ての有機生物を殲滅せしむTHE BERZERKER。
多くのミュージシャンが人間的な内面から音楽を創造するのに対し、THE BERZERKERの人間性排除と言ってもいい程の徹底したキリングマシンっぷりは、スカイネットが人類を絶滅させようと現世に遣わした、言わば音楽的ターミネーターと言ってもいいんじゃなかろうか。
もちろん、ハードコアテクノ・ガバ要素をリズムに取り入れたという試みがインダストリアル風味と相まってそう感じさせるのは間違いないが、肝心要の土台であるデスメタルの習熟度があればこその音楽性である。
平凡なデスメタルバンドではまるで追い付かないレベルのスピードで打ち鳴らされる浮世離れしたブラストビート、エクストリームメタルのカッコ良さを熟知したリフ捌きなど、インダストリアルというと「どーせ打ち込みなんじゃねーの?」という印象を持たれがちだが、基本的には生身の人間が演奏したものであることはPVを見れば明らか(ライヴ映像は未見)。
基本的な演奏スキルの高さ故に、ここまでの極端な表現が出来るというミュージシャンとしての当たり前の素質が、やもするとサンプリングの繰り返しになりがちなインダストリアルミュージックの限界突破に一役買っているのは間違いない。
飽くまでもメタルの様式を重んずる姿勢を重視する音楽性を見るとやはり、デスメタル界の住人なのだと納得させられた。
「ANIMOSITY」以降、特に動きがないTHE BERZERKERではあるが、かつて極端な音楽とされていたデスメタルに更なる極端さを加えた功績はいまだに輝き続けている。
私はずっと待っている。
もうとっくに限界を迎えていたと考えていたデスメタルの可能性領域を次に押し広げるのは誰なのかと。
ネクストステージのデスメタルを担う新たなる旗手の台頭を願うばかりである。

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