ブラックメタルの轍と進化 featuring 「PLAGUE ANGEL」 by MARDUK

3/12/2024

t f B! P L


正直、90年代のブラックメタルというジャンルにはいい印象がない。

当時デスメタル・グラインドコアその他諸々に食傷気味であった私は、新たな刺激を求めて輸入盤店という名のエサ箱を漁っていたのだが、どーもブラックメタル界隈には手を出せずにいた。

メタルのサブジャンルである以上、不穏なイメージや物騒な逸話が付き物である事は仕方が無いとも言えるし、プラスに働く事も有り得るのだが、それにしてもスカンジナビア…とりわけノルウェーのブラックメタル界隈は教会放火、危険思想、殺人などの実際に被害者も出ている事案も発生しているために音楽以前の問題、ただのテロリスト集団じゃねーか!などと思ったり、肝心の音楽に関しても巡り合わせが悪かっただけかもしれないが、隣の家から聞こえてくる騒音の様な?シャーシャー言ってる勝俣のような?劣悪な音質なモノが多い印象であった。

そんな事もあり、

メタルとしての魅力を感じない
総合的に音楽として未成熟
危険思想団体
逆ヤマンバメイク

という四重苦を背負った世間様に顔向けする事も適わないマニア向けの非常にけしからん音楽という烙印を私は勝手に押してしまった。

肝心要の音楽で全てを表現し伝える事を本懐とせず、テロまがいのアプローチで耳目を集めるというイメージが先行して、食指が動かなかったのだ。

勿論、これはまだウブだった私による偏見である。

黎明期ならいざ知らず、現在において高い音楽性、完成度を誇るブラックメタルバンドは山ほどいるし、ヒットチャートを賑わしているブラックメタルバンドも珍しくない。
時が経つにつれ、いつかのデスメタルがそうであった様に、美麗なメロディを取り入れたりシンフォニック化するなど聴きやすい方向へシフトする一派も現れ、かつての真性味が薄れた事により「ブラックメタル」という言葉がエンタメ化するくらいには市場に受け入れられたと思われた。

一方で、浮世離れした攻撃性、非人道的なスピード、荒涼殺伐とした世界観を旨とする真性ブラックメタル勢も、放火・殺人等の反社会的行動によって注目を集めるのでは無く、言いたい事は音楽で語る人に迷惑をかけないブラックメタルとして徐々に深化、ノルウェー勢のみならず、他国にも病原菌の如く伝播していったのである。

そしてお隣のスウェーデンも暗黒神MARDUKDARK FUNERAL大明神等が作品ごとに熾烈さを増しており、90年代末・ミレニアム目前・千年紀の終わりという人類が新たな歴史を紡ぎ出すタイミングでそれぞれ「PANZER DIVISION MARDUK」、「VOBISCUM SATANAS」という禍々しさと殺傷能力200%増しの猛吹雪がこの世のあらゆる負のエネルギーを巻き込んで戦時下の如く絨毯爆撃を行うこの2作品によって、新世紀を目前に控え期待に胸踊らせていた世界中の人々が恐怖のズンドコに叩き落とされた事は、ブラックメタル史において永遠に記憶されるであろう。


そしてその数年後、「PLAGUE ANGEL」が産み落とされた。

既に以前のステージにいないそのサウンドは人間が創り出したとは思えない特級呪物であった。

あらゆる凶兆を含んだ呪いの言葉、聴くだけで疫病に罹ってしまいそうなリフ群、超速で襲いかかるイナゴの大群の如きリズムなど、災厄が形を成したようなその御姿に人類は皆恐怖した。

そして歌詞・音楽・アートワークが三位一体となってイメージさせたのは
」 「」 「疫病」 「戦災」 「
という生きとし生けるものが忌避するキーワードばかりである。

疫病賛歌"Throne of Rats"、

盆百のドゥームメタルバンドを余裕で蹴散らすヘヴィさで人間の王朝文明に滅びを告げる地獄絵図ナンバー"Seven Angels,Seven Trumpets"、"Perish in Flames"、

「ブラックメタルの速さ」とは何かを身をもって知らされる凶速の"The hungman of Plague"、"Warschau"、"Everything Bleeds"

など、スウェーデンの暗黒神による御業を堪能出来る作品であり、ブラックメタルの神髄に最も近い作品のひとつとして永遠に忌み嫌われるであろう。


かつてはセンセーショナルな事件などでしか認知されず、本当の意味で嫌われがちであったブラックメタルは、時を経て数多の進化を辿り、ようやく正当な評価を受けて「音楽的な人類の敵」になりつつある。最初からそうだったとか言わない

50年代にロック音楽が産まれた当時、ケチョンケチョンに貶されていた事実を考えると、ロック音楽のアイデンティティを1番色濃く受け継いでいるのはひょっとしたらブラックメタルなのかもしれない。

このまま人類に警告を与える存在として、黙示録のその日まで進化し続けてほしいものである。





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